09/09 「養命酒」 藤井隆史

養命酒を飲み始めてからというもの、僕の身体は俄然調子が良い。

ドイツでは、僕が留学当初は、毎月の学生保険料(80マルク=40ユーロくらいだったような)を払えば、お医者さんにかかるのも検査もただ(←保険料以外の支払いはなし、という意味)、薬までただで頂け、友人の中にはちょっと調子が悪いだけでお医者さんに行き、ドイツではそう簡単に受けさせてくれない検査(自然治癒力を推奨する医者が多かった。確かに正論。)を隅々受け、栄養剤的なものをたんまりもらってくる輩もいた。
そんな制度もユーロ導入と共に保険料が上がり続け、僕が日本へ帰国した時点では、僕が30歳を超えてもまだ学生をしていたため(←大きなお世話)毎月130ユーロの保険料、お医者さんに行く際には、3ヶ月に一度10ユーロずつ受付で払い、診察・検査はそれでまかなわれ、薬は自己負担になっていた。

この「3ヶ月に1度、10ユーロずつ」システムになってからは、一度支払った10ユーロが3ヶ月間どの病院でも有効なので、一度どこかの病院にかかることになると、「どこか他に悪いところはないかっ」と体中の異常を探しまくり、内科に始まり眼科→整形外科→皮膚科、どこも悪いところがなくなると、マッサージやヨガなど保険が効くものにまで走り、3ヶ月間病院通いに精を出すのである。
ただよほどの急病でない限り、病院に予約の電話をしても「風邪ね。じゃあ、来週の木曜に来て」なんて言われてしまう対応の国だから(来週なんて、もう治っとるわーーーい!!)、意外と予約がうまく埋まらないことも多い。
すぐに予約を入れてもらうために、病院への電話で、いかに電話口で苦しく演じられるか自慢を友人とよくしたものだ(僕は床に寝転び、仰向けになって電話するタイプ。顎は上げ気味)。

ドイツ生活にも少しずつ慣れ始めたある日。

「今日は気圧が低いから、頭が痛くて、ぼーっとしちゃうわ」

何をやっても常に怠慢な、とあるドイツ人仲間がこんな風に言い出し、遂に天気のせいにし出したよ、と嘆いていたところ、非常に真面目な日本人の友人までもが、
「私もひどくて。」
などと言っているではないか。

当時は、自分は何とお気楽な世界に来てしまったのかと思っていたが、確かに、ものすごく晴れた日や、季節の変わり目、雲がすぐ頭上にあるかのような天気の悪い日には、頭痛を経験したことのなかった僕まで「あ・・あたま、痛いかも」ということがよく起こるようになった。頭痛はつらい。
地域にもよると思うが、快晴だと思ったら急に低い雲が立ち込め、強風+土砂降りになり、またぱっと晴れて、夜はみぞれ、なんて天気もよくあったので、これでは体もついていかなくなるわけだと思ったし、この天気がドイツ人気質に通ずるのかも、と変に納得したものだ。

「昨日は満月だったから、よく眠れなかったよ」と、狼でもあるまいし真顔でいう者もいたが、それが本当なのかは、僕にはわからない。

僕は当時、病院にはできるだけ行かないようにしていた時期だったので、「頭が痛い」と、ピアノの先生であるベンツ先生に相談していたところ(注:先生は天気の話が大好きで、天気と体調との関係などをよくレッスンの初めに聞かされていたし、僕は逆にどーでもいい話をよく先生に聞かせていた)、お茶を飲めばいい、と言うではないか。
しかも、眠れないときに飲むお茶、胃腸の調子が悪いときに飲むお茶など、何でもあると言う。

早速ドラッグストアに行ったところ、棚一面にずらーっとティーバッグが並んでいる。
明らかにおいしそうではない匂いのお茶は、いらいらしたときに飲むお茶、膀胱炎に効くもの、その他(忘れた)あり、その隣にもずらーーっとタブレットや錠剤、水に溶かして飲むものなどもある。

そういえばここら辺の棚って、いつも人がパッケージを真剣に読んでいるなあと思っていたが、その日を境に僕もその仲間入りをし、身体に良さそうなもの、もっとこんなところがよくなればいいのに(例えば視力がよくなるとか、暗譜力を高めるため集中力がつくもの、男のくせに美肌とか)というものまで、色々試すようになった。

お茶の味はというと、超コーヒー派の僕からすると、美味しいとは思えなかったが、その味から「ああ、ドイツにいるっぽい~」と一人で浸り、結構愛飲していた。日本に一時帰国の際には大量に買い、誰かからどこそこの調子が悪いと聞くと、「これ、ホントーに、いいから!」と勝手にそのお茶を勧めていたが、好評だった試しは一度もない。
おそらく香草が少々きついのと、水の違いや気候の違いも関係しているのだろう。
ドイツで、美味い美味いともりもり食べ、山のように買って帰国したチーズが、日本ではそれ程美味しく感じられないのと同じくらい、がっかりしたものだ(ドイツのお菓子も然り)。

はたまた、高麗人参茶は身体が温まり非常に良いと聞き、アジアンショップで大量購入し、どこに行くにも持参していた(海外コンクール遠征時のお供)ある日
「あれ飲むと、だるくならない?駄目なんだよね」
なるなる~~!!

それってやっぱり合っていないということなのね、ということで、即中止。
ただでさえ体温が高めの僕が飲むと、頭までぼーっとしてきたのであった。

またある時は、大学のピアノの先生が「身体に良いお酒があるから、あげる」と、ボトルを下さった。中には何やら薬草っぽい葉っぱのようなものが漬け込んであって、いかにも良薬は口に苦し系。
注意することは、体調が悪いときに、1回だけ飲むこと。それだけで、あれやこれや病気が治ってしまう、ドイツで大人気のお酒というから、僕も早速試す。

しばらくして、

「・・なん、か~、、しんどい・・気が・・」

体中の力が抜け切ってしまい、とにかく何も出来ない。

次の日、きっと昨日の体調と合わなかったのだ、もう一度 と試すが、しばらくすると、本当にしんどい。 「・・ナンなんだ。コレ」

その先生に電話をすると(本当にしんどいときは普通の姿勢で)、
「人によって、合う合わないがあるらしいね。捨てちゃって。」

体調が余りよくないときに、更に悪くなり、少し落ち込んだ。

あれこれ試し、どれも絶大な効果を感じられなかった僕は、友人がプロポリスを角砂糖に含ませてほおばると、非常にまずいがこれで風邪一つひかなくなったと聞き、その足で養蜂屋さん(というのだろうか)に向かい、迷わず購入。小さなマンハイムの街にも、この養蜂屋さんはいくつかあったのだから、需要があるのだろう。
その後3年ほど続けたが、意外と音楽家に多い、プロポリス愛用家の皆さんが目をハートにさせて言うほど、ものすごく体調がよくなった気もしないし、風邪はひく(注:風邪はひくが、ひどくならない、ということのようだ)。

が、他にそれに替わるものもないし、とりあえず続けようと思った時期が日本帰国と重なり、日本で何かないかな~・・ああ、「薬用養命酒」のCM にたどり着いたのである。

飲むのは、さすがにまだ若いと思うので、夜寝る前だけ。飲んだ後、ほぼ毎回、あの「っ・・ぐへっっ」という感じはするのだが、約一年飲み続けた結果、以前であれば、次の日必ずへたりそうな行事の後も、風邪をひきそうな予感というものも、ほとんどない。気持ちも心なしか、穏やかになった気がする。
移動時に持ち運びが出来ないのと(錠剤タイプができても、酒の方が効きそうだし)、保存に場所を取るのが難だが、これまで挑戦した栄養剤と比べて、格段の進化だ。

結局のところ、僕は信じ込みやすい&過剰に効果を期待する性格なので、「これを飲めば天国のように超健康な毎日が来るのか!!」と思い込みすぎて、どれも効かないのだろうと思うのだが、よく考えてみれば、ここ最近は寝込むことも、「もう駄目」ということも、まずない。

有り難いことに、僕はかなり健康体のようである

 

藤井隆史


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